
「出産後、重い物を持つと尿漏れが起こるようになった」
「年齢を重ねたら、くしゃみや咳で尿漏れが起こるようになった」
上記に当てはまる方は、「腹圧性尿失禁」を発症している可能性があります。
日常の中でふとした瞬間に尿漏れが起こってしまうのは、なぜなのでしょうか。また、どのように対処すれば良いのでしょうか。
今回は、くしゃみや咳で尿漏れが起こる原因について解説します。
自宅でできる対処方法や、医療機関で受けられる治療方法もご紹介しますので、お悩みの方はぜひ参考にしてください。
くしゃみや咳で尿漏れが起こるのは「腹圧性尿失禁」

腹部に力が入った際に、意図せず尿が漏れてしまう症状を「腹圧性尿失禁」といいます。
尿道を支える骨盤底筋や、膀胱周囲の筋肉が十分に機能しないことで腹圧に耐えられなくなり、尿が漏れてしまう状態を指します。
尿失禁には、急に尿意を覚える「切迫性」、膀胱から尿が少しずつ漏れ出る「溢流(いつりゅう)性」、身体・運動機の低下や認知機能の低下で起こる「機能性」などいくつか種類がありますが、特に40代以降の女性に多く見られるのが「腹圧性尿失禁」です。
「風邪を引いたときや花粉が飛散する時期には、尿漏れがひどくなる」という方もいます。
「腹圧性尿失禁」の特徴

腹圧性尿失禁を発症すると、具体的にどのような症状が現れるのでしょうか。
また、腹圧性尿失禁が女性に多い理由は、一体何なのでしょうか。
詳しく解説します。
腹圧性尿失禁の主な症状
通常、腹圧性尿失禁で漏れ出る尿は少量であり、朝よりも夕方のほうが、寝ている時よりも活動中のほうが、症状が現れやすい傾向にあります。
腹圧性尿失禁だけが理由の場合、眠っている時に尿漏れがおきることはありません。
日中の動作をきっかけとして起こります。
尿漏れが起こりやすい具体的なタイミングは、以下の通りです。
- くしゃみや咳をしたとき
- 大きな声で笑ったとき
- 重い物を持ち上げたとき
- 運動をしたとき(走る・ジャンプなど)
- 立ち上がったとき
軽症であれば、尿の溜まっている感覚があるときに激しく咳き込んだり、重い物を持ち上げたりするなど、腹部に強い圧力がかかったタイミングで尿漏れが起こります。
しかし、重症になると、強い尿意はないのに、歩いたり、椅子から立ち上がったりするたびに症状が現れることがあります。
尿漏れに気付いたら、重症化する前に泌尿器科を受診しましょう。
腹圧性尿失禁が女性に多い理由
腹圧性尿失禁の発症には、男女差があります。
男性は尿道が長く、前立腺があるため、腹圧性尿失禁を発症することはほとんどありません。
一方、女性は尿道が短く、腟があるために尿道を支える筋肉量が少ないため、もともと尿が漏れやすい構造です。
また、運動不足によって筋肉量が低下したり、排尿や排便のたびに強くいきんで腹圧をかけたりと、日常の習慣が尿漏れを引き起こしているケースもあります。
腹圧性尿失禁は、妊娠・出産を経験した方や更年期の女性に多く見られますが、20~30代の若い女性でも発症する可能性があります。
激しいスポーツや長時間の立ち仕事・座り仕事、肥満や慢性的な便秘をきっかけに尿漏れが起こる方もいるため、「若いから大丈夫」と放置してはいけません。
尿漏れを自覚したら、医療機関へご相談ください。
腹圧性尿失禁の主な原因

くしゃみや咳など、腹部に強い力が加わった際に尿漏れが起こる場合は、いくつかの原因が考えられます。
次に、腹圧性尿失禁の主な原因について詳しく解説します。
①妊娠・出産
妊娠中や出産時に骨盤周辺の筋肉や靭帯に負荷がかかり、ダメージを受けることで尿漏れが起こりやすくなります。
お腹の中で赤ちゃんが成長すると、骨盤底筋や靭帯に負荷がかかります。
また、妊娠中は黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌が増加します。
このホルモンには尿道などの平滑筋を緩める作用があるほか、リラキシンというホルモンの働きで骨盤を支える靭帯や結合組織が緩むため、尿道を支える力が低下し、尿漏れが起こりやすくなると考えられています。
経腟分娩を経験している場合は、出産時に骨盤底筋や靭帯が引き伸ばされて、尿漏れが起こるようになるケースもあります。
特に出産を複数回経験している、高齢出産であるという方は、骨盤底筋の緩みや機能低下が起こりやすいため注意が必要です。
一般的に出産後6ヶ月程度で尿漏れの症状は落ち着きますが、自然に回復しない場合は泌尿器科を受診しましょう。
②更年期
年齢を重ねて更年期に入ると、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌量が減り、のぼせや発汗、イライラや不眠など、心身に不調が現れます。
エストロゲンの低下は、尿道粘膜・腟粘膜の萎縮、尿道周囲の粘膜下血管叢の血流低下や、支持組織のコラーゲン量・質の低下といった変化を引き起こします。
これらは安静時の尿道閉鎖圧の低下させるだけでなく、粘膜萎縮に由来する膀胱容量とは無関係な尿意や不随意収縮(過活動膀胱症状)も引き起こすため、腹圧性尿失禁・切迫性尿失禁の双方を悪化させる方向に働きます。
GSM(閉経関連泌尿生殖器症候群)の一部として位置付けられる病態です。
このように、エストロゲンは女性の下部尿路の機能を維持するうえで重要な役割を担っています。
一方で、全身のエストロゲン補充療法(経口HRT)に関しては、大規模臨床試験で腹圧性尿失禁の程度を悪化させたとする報告があります。
腟錠などの局所エストロゲン療法はGSMによる外陰・腟症状の改善に用いられますが、腹圧性尿失禁そのものに対する直接的な効果は限定的です。
50歳を過ぎて閉経を迎えると、エストロゲンの分泌量が急激に減少します。
出産歴や加齢による骨盤底支持組織の変化と相まって、くしゃみや立ち上がりなど、軽い動作でも尿漏れが起こりやすくなります。
③加齢
年齢を重ねると、尿道を支える筋肉の量が減り、柔軟性を失って尿漏れが起こりやすくなります。
腹圧性尿失禁は40代以降の女性に多く見られますが、50代、60代と年齢が上がるにつれて、尿漏れを経験する方が増える傾向にあります。
更年期以降はエストロゲンが減少するため、尿漏れのリスクが高くなるという点には注意が必要です。
腕や足の筋肉と同様に、骨盤底筋はストレッチや体操で鍛えることができるので、筋肉量の低下を自覚したら意識的に鍛えるように心がけましょう。
④肥満・便秘
体重の増加や慢性的な便秘もまた、腹圧性尿失禁のリスクを高める要因の一つです。
体重が増え過ぎると、骨盤底筋に常に負担がかかり、機能低下や筋力低下につながります。
また、慢性的な便秘になると、排便の際に強くいきみ、骨盤底筋に負荷がかかります。
若いうちは問題がなくとも、年齢を重ねてから腹圧性尿失禁を発症するという方も少なくないので、根本的な原因の解決を目指しましょう。
将来的な尿漏れのリスクを低下させるためにも、食生活を見直したり、適度な運動を取り入れたりと、健康的な生活習慣を身につけることが大切です。
腹圧性尿失禁への対処方法

出産や加齢、肥満や便秘など、腹圧性尿失禁を発症する原因は人によって異なります。
辛い症状を少しでも緩和したいという方は、原因に合った方法で改善を目指しましょう。
自宅で試せる腹圧性尿失禁への対処方法をいくつかご紹介します。
骨盤底筋トレーニングを行う
骨盤底筋の機能が低下している場合は、「骨盤底筋トレーニング(ケーゲル体操)」が有効です。
医療機関でも実施されている方法で、意識的に鍛えることで尿漏れの症状緩和を目指します。
骨盤底筋トレーニングの方法は、以下の通りです。
- 仰向けの姿勢を取り、両ひざを軽く立てて足を肩幅程度に開く
- ゆっくりと息を吐きながら尿道や肛門、腟に力を入れて引き締める
- 5秒間キープした後、ゆっくりと息を吸いながら力を抜く
- ②と③の動作を10回繰り返す
上記の運動を1セットとして、1日3回を目安に行いましょう。
トレーニングが難しいという方は、3秒や5回から始めて、徐々に時間や回数を増やすと良いでしょう。
医療機関で指導を受けることも可能なので、「トレーニングを行っても効果を実感できない」「正しいトレーニングの方法を知りたい」という方は、泌尿器科へご相談ください。
生活習慣を見直す
肥満や便秘が原因で尿漏れが起こっている場合は、生活習慣を見直すことが大切です。
自身の適正体重は、以下の計算方法でわかります。
身長(m)×身長(m)×22=適正体重
身長が160cmの方の場合は、「1.6×1.6×22=56.32」となり、「約56kg」が適正体重だと判断できます。
いきなり体重を減らすと心身に負担がかかるので、1ヶ月に1kgを目安に減量に挑戦しましょう。
慢性的な便秘だという方は、食生活を見直したり、運動を取り入れたりすることをおすすめします。
栄養バランスの整った食事が基本ですが、便秘の方は食物繊維を摂取し、水分補給も忘れずに行ってください。
ストレッチやウォーキングなど、軽い運動を取り入れて、骨盤底筋をはじめとした筋力の向上を目指しましょう。
激しい運動を行うと尿漏れが悪化する可能性があるので、無理のない範囲で取り入れることが大切です。
腹圧排尿の中止
腹圧性尿失禁にお悩みの方の中には、尿漏れを防ぎたいという思いから、トイレのたびに尿を最後まで出し切ろうと踏ん張る方がいらっしゃいます。
しかし、この「腹圧排尿」の習慣は、尿失禁をかえって悪化させる可能性があります。
腹圧で尿を押し出す動作は、尿道や前腟壁に「腹圧をかけて排尿する習慣」を学習させているような状態だからです。
排尿は本来、副交感神経の反射によって自然に行われるものです。
腹圧をかけずに排尿することが鉄則ですので、最後の1滴まで搾り出そうとせず、自然に流れる範囲で排尿を終えるよう心がけてください。
腹圧性尿失禁の治療方法
骨盤底筋トレーニングや生活習慣の見直しを行っても、症状を緩和できないという方は少なくありません。
尿漏れが頻繁に起こることで日常生活に支障をきたしている場合は、我慢せずに泌尿器科を受診しましょう。
最後に、医療機関で行われている腹圧性尿失禁の治療方法をご紹介します。
薬物療法
骨盤底筋トレーニングや生活習慣の見直しで十分な改善が見られない場合、薬物療法が選択肢となります。
腹圧性尿失禁に対しては、尿道括約筋を収縮させる作用を持つ「β2刺激薬(クレンブテロール塩酸塩など)」が用いられることがあります。
保険適用の治療であり、自費治療や手術に進む前のステップとして検討されます。
副作用や効果には個人差があるため、医師の診察の上で処方の可否を判断します。
レーザー治療・高周波治療
少量の尿漏れや、じわじわと漏れるような場合は、「インティマレーザー(エルビウムYAGレーザー)」のようなレーザー治療が有効です。
じわじわ漏れるような尿漏れは、後述する手術治療では治りにくく、主に腟や尿道の萎縮によって起こるためです。
レーザーで粘膜組織を活性化させ、弱った腟や尿道の粘膜・粘膜下組織のターンオーバーを促進します。
尿漏れ以外にも、腟の乾燥や緩み、性交痛や繰り返す膀胱炎の改善に改善効果があるという論文がでてきています。
当院では、同様の目的で「モナリザタッチ(CO2フラクショナルレーザー)」「ウルトラフェミー360(高周波)」もご提供しています(いずれも自費診療)。
施術回数は、1ヶ月ごとに合計3回が標準的です。
ただし症状の程度には個人差があり、軽症の方や効果を実感するのが早い方であれば、1回の施術でも十分な改善が見られることもあります。
施術には麻酔は不要ですが、照射部位によっては麻酔クリームで痛みを緩和することもできるため、痛みが苦手という方は担当医とご相談ください。
施術時間は照射内容により前後しますが、およそ20〜30分です。
ダウンタイムは、当日の入浴を控え、1週間程度は性交渉や大衆浴場・プールの利用を控えていただきます。
尿道照射を行った場合は、当日から長い方で1週間程度、排尿時に違和感を覚えることがあります。
とはいえ日常生活への影響はほとんどないため、お仕事やプライベートが忙しい方でも取り入れやすい治療です。
なお、レーザー治療および高周波治療は有用な選択肢である一方、現時点でエビデンスレベルが確立しきっていない領域もあり、施術を行う施設の技術や経験によって効果の出方に差が生じる可能性があります。
担当医から事前に十分な説明を受けた上でご判断ください。
手術療法
腹圧性尿失禁の症状が重い場合は、「中部尿道スリング」と呼ばれる手術が行われることがあります。
「TVT手術」と「TOT手術」の2つの術式が存在しますが、いずれもメッシュテープで尿道を支え、筋肉を補強するという方法が取られます。
手術時間の目安は20~30分程度で、1~3日程度の入院が必要ですが、翌日から歩行や食事が可能です。
術式や入院日数は患者様によって異なるので、医師とよく相談した上で手術を検討しましょう。
手術による治療は非常に効果がありますが、完璧な治療ではありません。特に、腹圧習慣を改善しない場合には早期に再発する可能性もあるので注意が必要です。
尿漏れにお悩みの方は医療法人心鹿会へご相談ください

尿漏れは命にかかわるような病気ではありませんが、頻繁に起こると日常生活に支障をきたします。
腹圧性尿失禁の症状は適切な治療で改善できるので、「くしゃみや咳をするのが怖い」「外出をためらうようになった」という方は、泌尿器科を受診しましょう。
尿漏れにお悩みの方は、医療法人心鹿会へご相談ください。
検査を行って原因を突き止めた上で、患者様一人ひとりに合った方法で治療を行います。
「尿漏れへの対処方法がわからない」「腹圧性尿失禁か調べてほしい」など、まずはお気軽にご相談ください。




