
性交渉の経験がない女性は、「処女(バージン)」と呼ばれます。
また、初めての性行為のことは「初交」と呼びます(「初体験」は俗称であり、医学的には正確ではありません)。
初交時、女性は痛みや出血を伴うことがあるといわれています。
しかし、これらの症状は必ずしも全員に起こるわけではなく、個人差が大きいのが実際のところです。
痛みや出血が起こる原因は、何なのでしょうか。また、どのような対処法があるのでしょうか。
今回は、「処女膜」の正しい構造や医学的な役割について詳しく解説します。
初交時の痛みの有無や考えられる原因、挿入が困難な場合の対処方法や医療機関を受診すべきタイミングなどもご紹介しますので、性交渉に対して不安を感じている方は、ぜひ参考にしてください。
処女膜とは
初交の経験があるか否かは、しばしば「処女膜」の状態と関連付けられますが、実際には処女膜について多くの誤解があります。
まずは、医学的に正確な構造と役割について解説します。
処女膜の構造
腟口の入り口付近にあるひだ状の粘膜組織を「処女膜」といいます。
「膜」という名称から、腟を完全に覆う薄い皮のようなものをイメージする方も多いですが、実際は異なります。
処女膜は腟口の周囲を取り囲むように存在する輪状の粘膜組織で、中央部には生理の経血やおりものを排出するための開口部があります。
この開口部の大きさは個人差がありますが、通常は直径1〜2cm程度です。
形状も人によって異なり、環状型(ドーナツ型)や半月型、篩状型(複数の小さな穴がある)など様々です。
厚みは1〜2mm程度で、コラーゲン線維が豊富に含まれており、周囲の腟粘膜と比較してやや硬い性質を持ちます。
靭帯と似た構造的特徴を持ち、弾力性はありますが、伸展性には限界があります。
また、神経組織はほとんど含まれていないため、処女膜自体に痛覚はほぼありません。
処女膜は一度大きく伸展したり、裂けたりすると、コラーゲン線維の配列が変化するため、完全に元の状態に戻ることはありません。
ただし、小さな裂け目は、時間とともに瘢痕化して治癒することがあります。
処女膜に関する一般的な誤解
処女膜については、多くの誤解が存在します。
以下、よくある誤解と事実を整理します。
事実:処女膜には伸縮性があり、性交時に伸びることが多く、必ずしも破れるわけではありません。
事実:日常生活での運動やタンポンの使用、医療検査などでも処女膜は変化するため、外見から性交経験の有無を判断することはできません。
「ペニス挿入できなさそうな処女膜の狭さ」であれば挿入したことがない、ということを判断することができます。しかし、性交経験がなくても「処女膜が狭い」とは限りません。
事実:出血量は個人差が大きく、全く出血しない場合も多くあります。
処女膜の役割
処女膜の生物学的な役割については、教科書的には「完全に解明されていない」とされることが多いですが、臨床現場での観察から、いくつかの重要な機能を考えることができます。
処女膜は周囲の腟粘膜よりも硬い組織であるため、腟口への物理的な侵入を感知する境界として機能していると考えられます。
処女膜自体には神経がほとんどありませんが、その直下にある前庭部は神経が豊富に分布する薄い組織です。
この二層構造により、外部からの刺激に対して適切な感覚的フィードバックを提供する仕組みになっています。
処女膜は単独で存在するのではなく、骨盤底の構造の一部として以下のような機能を果たしています。
- 前腟壁側:処女膜の前方部分は尿道を安定させる役割を担い、排尿時の尿の流れを一定に保つことに寄与しています。
- 後腟壁側:後方部分は排便時の会陰部の動きを安定させ、骨盤底筋群の協調的な動きをサポートしています。
処女膜輪(処女膜の輪状構造)は、腹圧がかかった際の腟壁の過度な下垂を防ぐ役割も果たしていると考えられます。
臨床的に骨盤臓器脱の患者様を観察すると、処女膜輪がある程度保たれている場合、腹圧による腟壁の脱出が処女膜輪の部分で制限される様子が見られます。
これは、処女膜輪が腟口において一種の「支持リング」として機能し、骨盤内臓器の下垂を物理的に制限する役割を果たしている可能性を示唆しています。
幼少期においては処女膜がより厚く、開口部が小さいことから、腟内への異物侵入に対する物理的バリアとしての役割があると考えられています。
思春期以降、エストロゲンの影響により組織が変化し、成人女性としての機能に適応していきます。
これらの機能的側面は、処女膜が単なる「痕跡的な組織」ではなく、女性の骨盤底機能において複数の重要な役割を果たしている可能性を示唆しています。
処女膜は、感覚的境界や骨盤底の安定化、臓器脱の予防など、女性の骨盤底の統合的な機能維持に寄与する正常な解剖学的構造として理解されるべきです。
ただし、処女膜の有無や状態が女性の価値や純潔さを決めるものではないことは、改めて強調しておきます。
これらは、あくまでも医学的・機能的な側面であり、社会的・文化的な価値判断とは完全に切り離して考える必要があります。
性交時に痛みや出血が起こる原因

誰もが必ず経験するわけではありませんが、女性が初めて性交渉を行う際に痛みを感じたり、出血が起こったりするケースがあります。
性交時に痛みや出血が起こるのは、なぜなのでしょうか。考えられる原因をご紹介します。
痛みを感じる原因
初交時には、不安や緊張で体がこわばり、腟に力が入って痛みを感じやすい傾向にあります。
リラックスすることで痛みを緩和できる可能性もありますが、他にも、腟や処女膜が傷付いたり、腟が乾燥していたりすると、痛みを感じることがあるでしょう。
考えられる痛みの原因について、詳しく解説します。
①前庭部の痛み
腟前庭部は、処女膜の直下に位置する、神経が豊富に分布した薄い粘膜組織です。
この部位は、腟への侵入を感知する重要な感覚器官として機能しています。
前庭部の主な役割は、腟に何かが侵入したことを感覚として脳に伝えることです。
この感覚は主に「痛み」として認識されますが、これは生体防御機構の一つと考えられています。
つまり、前庭部の痛覚は、不適切な侵入から体を守るための警告信号として機能しているのです。
初交時には、この前庭部が初めて大きな物理的刺激を受けるため、強い痛みとして感じられることがあります。
これは異常ではなく、前庭部が正常に機能している証拠でもあります。
②女性器が傷付く
物理的に腟口が裂けてしまう場合、強い痛みを感じることがあります。
腟内や処女膜が傷付くと痛いと誤解されることがありますが、腟内や処女膜には痛覚が少なく、痛みはあまり感じません。
大抵の場合、性交渉を繰り返すことで痛みを感じにくくなりますが、傷の度合いによっては婦人科での処置が必要となるケースもあります。
性交後にも強い痛みを感じる、痛みがなかなか治まらないという場合には、腟口が大きく裂けてしまったり、感染が起こったり、場合によっては性器ヘルペスなどの感染症にかかっていたりと、何らかのトラブルが起こっていると考えられるでしょう。
放置していると悪化する可能性があるので、婦人科へ相談しましょう。
③伸縮性が足りない
腟が伸び縮みすることに慣れていないと、骨盤を支持している筋肉や臓器が刺激されることで強い痛みを感じる可能性があります。
ほとんどの女性が腟に異物を入れるという経験がないため、男性器を挿入する際に腟が引き伸ばされて痛みを感じるのです。
初めての性交渉に緊張すると、体に力が入ってより痛みを感じやすくなります。
初交時には焦って性行為を行わずに、まずはリラックスできる環境を整えましょう。
④うるおいが足りない
緊張で体に力が入ると腟内が濡れにくくなり、痛みを感じる方もいます。
基本的に性的興奮が起こると、腟内が傷付かないように自然に水分が分泌されて、男性器の挿入をサポートします。
しかし、初めての性交渉で緊張していると腟内がうるおい不足になり、男性器を挿入する際に摩擦が生じて痛みを感じるのです。
無理に挿入を行うと、腟内が傷付いてしまいます。
まずは緊張をほぐして、十分にうるおっているか確認してから挿入しましょう。
出血が起こる原因
「処女喪失時には腟から血が出る」というイメージを持っている方もいるかもしれませんが、必ずしも出血が起こるとは限りません。
元々処女膜が薄い方や、何らかの原因ですでに破れている場合は、初交時に出血が起こる可能性は低いといえるでしょう。
出血が起こった場合でも、腟の筋肉が硬くなっていたり、腟内が乾燥していたりと、処女膜ではなく腟に原因があるケースも少なくありません。
「出血=処女喪失の証」ではないので、出血がなくとも気にする必要はないでしょう。
痛みと同様に、出血が起こってもすぐに治まれば問題ありませんが、長引く場合は腟内でトラブルが起こっている可能性があるので、婦人科へご相談ください。
高齢処女だと初体験で痛みを感じやすい?
ネット上では、30代や40代に入っても処女のままでいる方を「高齢処女」と呼ぶ風潮があるようです。
10代や20代の女性と比較すると、「高齢処女は初体験で痛みを感じやすい」という噂があります。
確かに、年を重ねると腟の伸縮性が弱くなったり、腟が乾燥したりして、痛みを感じる方もいるでしょう。
しかし、年齢が高いからといって、必ずしも強い痛みを感じるとは限りません。
デリケートゾーンの状態は人によって異なるため、実際に性交渉をする段階にならなければ、痛みの有無や度合いはわかりにくいといえます。
「高齢処女は痛みを感じやすい」と強く意識してしまうと性交渉が怖くなってしまうので、処女であることを気にし過ぎないように注意しましょう。
性交時に挿入できない場合の対処方法

腟や処女膜の状態によって、性交時に男性器の挿入が難しいケースがあります。
精神的な問題を抱えていたり、男性側が問題を抱えていたりする可能性もありますが、女性器に原因がある場合はどのように対処すれば良いのでしょうか。
具体的な対処方法をいくつかご紹介します。
①潤滑ジェルやローションを使用する
うるおい不足による痛みが原因で挿入が難しいという方には、「潤滑ジェル」や「ローション」がおすすめです。
腟内にうるおいをもたらして男性器の挿入をサポートしてくれるので、摩擦や痛みが軽減します。
また、ジェルやローションを用意しておくことで、挿入に対する精神的なプレッシャーも緩和できます。
近年は、コンドームにあらかじめジェルやローションが塗布されている製品も販売されているので、パートナーと相談して性交時に取り入れてみると良いでしょう。
②デリケートゾーンのケアを行う
精神的な問題で挿入が難しいという女性には、デリケートゾーンのケアがおすすめです。
恋人にデリケートゾーンを見せると考えると、臭いや黒ずみ、アンダーヘアなどのトラブルがないか気になり、精神的なプレッシャーを抱えてしまう方は少なくありません。
緊張状態にあると性交時に痛みを感じやすいので、自信を持てるようにデリケートゾーンのケアを行いましょう。
デリケートゾーンが気になるからといって、執拗に洗ったり、カミソリや毛抜きでアンダーヘアの処理を行ったりすると、乾燥や黒ずみの原因になります。
デリケートゾーンの洗浄は外陰部だけに留め、腟内まで洗わないように注意してください。
アンダーヘアはハサミでカットして、完全に除去したい場合は医療脱毛を受けましょう。
③パートナーとよく話し合う
性交時の痛みや出血を抑え、スムーズに挿入するためには、パートナーとよく話し合うことが大切です。
初交時に不安や緊張を抱えていると、痛みを感じやすくなります。
また、腟内が乾燥してうるおいが不足したり、体がこわばったりして痛みを感じることもあります。
性交時には挿入を急がずに、まずはパートナーとスキンシップやコミュニケーションを楽しみましょう。
心身の緊張がほぐれたことを確認して、ゆっくりと時間をかけながら挿入を行ってください。
④医療機関へ相談する
グッズを使用したり、デリケートゾーンのケアを行ったりしても、痛みや出血などのトラブルが起こることもあります。
自力で解決できない場合は、無理をせずに医療機関を頼りましょう。
治療によって腟の乾燥を緩和したり、処女膜の一部を切除したりすることが可能です。
「性交時に痛みや出血が起こるのは処女だからだと思っていたら、実は婦人科系の疾患を発症していた」というケースもあるので、不安や悩みがあれば医師に相談してください。
医療機関を受診すべきタイミング
以下のような状態が疑われる場合は、医療機関での診察が推奨されます。
腟周囲の筋肉が不随意に収縮し、挿入が困難または不可能になる状態です。
心理療法と理学療法の組み合わせにより改善が期待できます。
処女膜に関連する挿入困難には、大きく分けて2つのパターンがあります。
①処女膜が厚い場合(痛みを伴わない)
処女膜自体が通常より厚いために物理的に挿入が困難な状態。
処女膜には神経がほとんどないため、この場合は痛みを伴いません。
外科的処置(処女膜切開術)により治療可能です。
②処女膜の先天的形態異常
- 処女膜閉鎖症:処女膜が完全に閉じている状態
- 中隔処女膜:処女膜に帯状の組織があり、腟口が二分されている状態
- 篩状処女膜:複数の小さな穴しかない状態
これらも主に物理的な問題であり、必要に応じて外科的処置で改善可能です
腟前庭部の過敏性により性交痛が生じる状態です。
前庭部は神経が豊富なため、強い痛みを感じます。
軽い接触でも痛みを感じることがあるでしょう。
個人差が大きく、痛みの程度は様々です。
薬物療法、理学療法、認知行動療法などで改善が可能です。
※海外ではProvoked Vestibulodynia (PVD)と称されていますが、日本の正式な病名登録はされていません(2025年12月現在)。
女性器を専門的に診察する医療者では直訳として誘発性前庭部痛と表現することが多いため、この呼び方を載せました。
性交困難を診断する際は、以下の点を区別することが重要です。
- 痛みがない挿入困難:処女膜の厚さや形態異常が主因の可能性
- 痛みを伴う挿入困難:前庭部痛や心理的要因、潤滑不足などが主因の可能性
- 両方が併存する場合:処女膜の問題と前庭部痛が同時に存在することもあります
これらは個人差が大きく、一人ひとりの状態に応じた適切な診断と治療が必要です。
婦人科専門医による診察により、原因を正確に特定し、最適な治療法を選択することができます。
また、ネット界隈で挿入障害や性交痛の原因を「処女膜強靭症」と表現されることもありますが、処女膜に神経がほぼないことを考えると、原因は処女膜にないことは容易に予想できます。
なお、「処女膜強靭症」は、国際的な医学用語(ICD-11)の “Rigid hymen” を直訳したもので、通常より厚く硬い処女膜を指す、日本での臨床的な表現として使用されている可能性があります。
もしくはProvoked Vestibulodyniaを理解していなかった時代、処女膜が痛いのだと誤解していたための病名である可能性もあります。
デリケートゾーンに関するお悩みは医療法人心鹿会へご相談ください

性交時に挿入が行えないと、自身を責めてしまう女性が少なくありません。
処女膜の状態は人によって異なり、自力で改善することが難しいケースも存在します。
パートナーと話し合ったり、腟のケアを行ったりしても解決できない場合は、無理をせずに医療機関を頼りましょう。
デリケートゾーンに関するお悩みを抱えている方は、医療法人心鹿会へご相談ください。
当院は医師をはじめスタッフ全員が女性ですので、デリケートな問題も気兼ねなくお話しいただけるはずです。
「原因はわからないけれど性交時に痛みを感じる」、「病気を発症していないか調べてほしい」など、まずはお気軽にご相談ください。








