
陰部(デリケートゾーン)にできものやしこりがあると、悪い病気ではないかと不安になります。
特に「押すと痛い」、「出血がある」という場合には、より一層不安が増してしまいます。
陰部にできものやしこりが発生した場合は、どのような病気が考えられるのでしょうか。また、放置しても良いものなのでしょうか。
今回は、陰部にできものやしこりが発生する原因について解説します。
具体的な症状や治療方法、医療機関を受診する目安もご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
陰部にできもの・しこりが発生するのはなぜ?

女性の陰部は解剖学的に角質層が薄く、場所的に摩擦や刺激を受けやすいため、他の体の部分よりも敏感に反応する場合があるため、実は、できものやしこりが発生することは珍しくありません。
初めに、女性の陰部の特徴と、できものやしこりが発生する主な原因をご紹介します。
女性の陰部の特徴
女性の陰部(デリケートゾーン)は、ヒダが重なり合ったり、粘膜や分泌腺が存在する複雑な形状や構造であるため、汚れが溜まりやすいという特徴があります。
また、そういった複雑な構造に加えて、下着の着用により通気性が制限され、さらに生理用ナプキンやおりものシートの使用によって湿潤な環境が持続しやすくなります。
すると、細菌が繁殖しやすい条件となり、できものやしこりが発生することも珍しくありません。
不衛生な環境になりやすい部位ではありますが、過剰に洗浄しないようにしましょう。
般的に「デリケートゾーン」と呼ばれる外陰部は、皮膚や粘膜が薄く刺激に敏感なため、ケアを行う際にはやみくもに行わないよう注意が必要です。
できものやしこりが発生する原因
陰部にできものやしこりが発生した場合は、感染症にかかっている、もしくは腫瘍である可能性が高いといえます。
陰部の傷から細菌が入り込んで感染症を発症するケースもあれば、性行為によって性感染症を発症するケースもあります。
感染症を発症した場合は、陰部に痛みやかゆみが起こったり、不正出血が起こったりすることもあるでしょう。
できものやしこりが腫瘍である場合は、検査を行って良性か悪性か調べる必要があります。
悪性腫瘍(がん)の場合は早急に治療が必要となりますが、多くの場合は良性であり、悪性腫瘍であるケースは非常に稀です。
いずれにせよ、できものやしこりの大きさと症状の重さは比例しません。
陰部に異常が見られたら、決して放置せずに医療機関を受診してください。
陰部にできもの・しこりが発生する病気
陰部にできものやしこりが発生する原因には、様々なケースが考えられます。
中には、深刻な病気を発症しているケースもあるので、自身の症状があてはまるかチェックしておきましょう。
女性の陰部にできものやしこりが発生した場合に考えられる、主な病気を7つご紹介します。
①バルトリン腺炎・バルトリン腺嚢胞
バルトリン腺は腟の入り口(5時と7時の位置)に左右一対ある分泌腺です。
性的興奮時に潤滑液を分泌する重要な役割を持っています。
バルトリン腺に炎症が起こることを「バルトリン腺炎」といい、何らかの理由でバルトリン腺の開閉部が塞がってしまい、膿が溜まって腫れた状態を「バルトリン腺嚢胞」といいます。
腟口の左右どちらか一方にのみしこりがある場合は、バルトリン腺炎やバルトリン腺嚢胞の可能性が考えられます。
原因と主な症状
バルトリン腺に細菌(大腸菌、ブドウ球菌など)が侵入すると炎症を起こし「バルトリン腺炎」を発症します。
炎症が起こると開口部が詰まってしまい、腟分泌物をスムーズに排出できなくなります。
その結果、内部に膿が溜まって腫れてしまうのが「バルトリン腺嚢胞」です。
バルトリン腺炎は、初期には目立った症状は現れませんが、炎症が悪化してバルトリン腺嚢胞と呼ばれる状態になると、腫れが起こって強い痛みを感じることがあります。
初期は小豆大ですが、進行するとピンポン球大まで腫れることもあります。
また、発熱のような全身症状が現れるケースもあります。
治療方法
症状が現れていない場合は、抗生剤を用いて治療を行います。
嚢胞が発生して強い痛みを感じる場合は、切開・吸引によって膿を取り除いた後、抗生剤で治療を行うという方法が一般的です。
嚢胞が感染を繰り返すようであれば、さらに開窓術や嚢胞摘出術などの外科手術が行われるケースもあります。
②尖圭コンジローマ
ヒトパピローマウイルス(HPV)に感染することで発症する性感染症が、「尖圭コンジローマ」です。
外陰部や肛門周辺にイボのようなものが複数できている場合は、尖圭コンジローマである可能性が疑われます。
原因と主な症状
尖圭コンジローマは、ヒトパピローマウイルス(HPV)6型・11型による性感染症です。
感染から発症まで数週間から数ヶ月かかるため、感染時期の特定が困難です。
初期の段階では小さなイボが数個できる程度ですが、進行するとイボが大きくなったり、数が増えたりします。
腟や会陰の内側、肛門などに発生することが多く、イボを触るとザラザラしているという点が特徴です。
適切な治療を受けずに放置していると、痛みやかゆみ、出血が起こるケースもあります。
発症までに数週間から数ヶ月の時間がかかるため、感染していることに気付けない方がほとんどです。
イボができていると気付いたら、早急に医療機関を受診してください。
治療方法
- 外用薬治療:イミキモドクリーム(週3回、最大16週間)
- 外科的治療:液体窒素による凍結療法、電気メスやレーザーによる焼灼術
- 再発予防:HPVワクチンの接種
日本性感染症学会のガイドラインなどによると、治療後も約25%が3ヶ月以内に再発するため、定期的な経過観察が必要です。
治療中は、パートナーとの性行為は避けましょう。
尖圭コンジローマは、一度消失しても再発する可能性があるため注意が必要です。
HPVワクチン(4価または9価)によって感染を予防することもできるので、ワクチンを希望される方は、治療の際に医師へ相談してください。
③性器ヘルペス
2型ヘルペスウイルスに感染することで発症する病気が、「性器ヘルペス」です。
陰部を中心に多数の水疱が発生している、尿がしみて痛いなどの症状がある場合は、性器ヘルペスを発症している可能性があるといえるでしょう。
原因と主な症状
単純ヘルペスウイルス(HSV)による感染症で、一度感染すると神経節に潜伏し、免疫力が低下すると再発します。
初感染では症状が重く、感染した性器に水膨れができるだけではなく、腟内やお尻、太ももに感染が広がることもあります。
足の付け根にあるリンパ節が腫れて痛み、発熱や全身倦怠感を伴います。
再発した場合、症状は軽いですが、月経前や疲労時に繰り返すことがあります。
感染経路は主に性行為による性器への接触ですが、タオルのような共有アイテムから感染することもあるため、家族と一緒に暮らしている場合は注意が必要です。
発生した水ぶくれは破れやすく、摩擦によって痛みが生じます。
進行すると、排尿痛が起こったり、発熱や頭痛などの全身症状が現れたりすることもあるでしょう。
性器ヘルペスは、免疫力が低下すると再発する可能性があるため、根本治療が必要です。
治療方法
性器ヘルペスを発症した場合は、抗ウイルス薬(アシクロビル、バラシクロビル)を5〜10日間内服して治療します。
また、繰り返し再発する場合(年6回以上再発する)は再発抑制療法を行います。
抗ウイルス薬を毎日の内服で予防します。
外用薬を処方された場合は、患部に塗布して様子を見ましょう。
痛みが強いときには、痛み止めを用いた治療が行われることもあります。
感染の危険性があるため、症状が落ち着くまでは性行為は控えましょう。
治療が早いほどに早期回復が見込めるので、発症に気付いたらすぐに医療機関を受診してください。
④毛嚢炎(毛包炎)
毛穴に細菌が入り込み、炎症が起こっている状態を「毛嚢炎(毛包炎)」といいます。
陰部にニキビのようなできものがあれば、毛嚢炎である可能性が考えられるでしょう。
原因と主な症状
アンダーヘアを自己処理した際や医療脱毛の施術を受けた際に、毛穴に細菌(主に黄色ブドウ球菌や大腸菌)が入り込むことで毛嚢炎を発症するケースが多いです。
元々デリケートゾーンには多くの常在菌が住み着いているため、傷ができると感染するリスクが高いといえます。
毛穴に炎症が起こると、毛穴の周辺が赤くなったり、盛り上がって膿が出たりします。
腫れが強くなると、かゆみや痛みを感じることもあるでしょう。
ニキビのようなできものだけでなく、大きなしこりのような形になるケースもあります。
治療方法
抗菌成分が配合された内服薬や外用薬を使用して、症状の改善を目指します。
処方された抗菌薬を使用すれば、数日程度で症状の改善が期待できるでしょう。
症状が悪化している場合は、切開を行って膿を取り除く処置が取られます。
軽度であれば自然治癒する可能性もありますが、悪化するとかゆみや痛みを伴うので、発症に気付いたら医療機関を受診することをおすすめします。
⑤粉瘤
皮膚の下に角質や皮脂が溜まって、できものやしこりのように見える状態を「粉瘤(ふんりゅう)」といいます。
粉瘤を押しても痛みはありませんが、細菌感染が起こると、腫れや痛みが出ることがあります。
原因と主な症状
粉瘤が発生する原因は明確になっていませんが、皮膚の擦れが多い場所に好発するという点が特徴です。
女性の陰部は下着によって摩擦が起こりやすいことから、粉瘤が発生しやすい場所だと考えられています。
デリケートゾーンだけでなく、顔や腕、背中や足などに発生するケースもあるでしょう。
粉瘤の中央部分に黒い穴のようなものがある場合、強く押すと臭いの強い内容物が出てきます。
深刻な症状はないものの、放置していると大きくなったり、細菌感染が起こると痛みが出たりするので、粉瘤に気付いたら医療機関を受診しましょう。
治療方法
粉瘤が自然に消えることはないため、局所麻酔をして切開を行い、内容物を取り除いて洗浄します。
手術後には軟膏が処方されるので、傷が治るまで塗布しましょう。
細菌感染によって炎症が起こっている場合は、抗菌成分が配合された内服薬や外用薬も使用して治療を行います。
⑥梅毒
梅毒トレポネーマに感染することで発症する性感染症が、「梅毒」です。
梅毒には1期から4期まであり、自覚される症状とされない症状があります。
原因と主な症状
梅毒は、性行為によって感染が起こります。
オーラルセックスやアナルセックスで感染します。お風呂やプールなどを介して感染が起こるケースはほとんどありません。
梅毒の最大の特徴は「症状が現れたり、消えたりする」という点です。
1期には感染箇所にできものやしこり、ただれなどの症状が現れますが、数週間〜1ヶ月程度で消えてしまいます。
また、2期には、足や手など、全身に赤い発疹が現れますが、数週間〜数ヶ月程度で消えるでしょう。
症状が消えたからといって、梅毒が治ったわけではありません。
潜伏期間に入り、密かに進行している可能性があるので、発症に気付いたら早急に医療機関を受診してください。
治療方法
梅毒に効果のある内服薬(ペニシリン系の抗菌薬)を内服して、症状の改善を目指します。
2021年からはペニシリンの単回注射による治療も始まりました。
ペニシリンアレルギーの人はドキシサイクリンなどの薬を使用して治療します。
進行している場合は治療に時間がかかりますが、基本的には1ヶ月程度で症状の改善が期待できるでしょう。
昔は不治の病と恐れられていた梅毒ですが、近年は医療技術の発達によって、深刻な症状が現れるケースは少なくなっています。
特に、治療が早ければ早期回復が見込める病気なので、発症の疑いがある方は医療機関を受診してください。
また、梅毒が陽性だった場合には、HIVなど他の性感染症の検査も受けることをおすすめします。
⑦尿道カルンクル
外尿道口に発生するポリープ状の良性腫瘍が、「尿道カルンクル」です。
若い女性で発症するケースは稀であるものの、更年期以降の女性には多く見られる疾患です。
原因と主な症状
尿道カルンクルは、老化によって尿道の粘膜が薄くなっていることに加え、排尿時に毎回腹圧をかけていると発症すると考えられています。
目立った症状はありませんが、外尿道口(尿が出る部位)に赤く小さいできものが発生します。
できものが大きくなると、出血が起こったり、かゆみや痛みが出たりすることもあるでしょう。
命にかかわる病気ではありませんが、放置するとカルンクルが大きくなり出血したり、腹圧をかけ続けることで尿道脱という痛みが出る病変へと進行していく可能性があるため、医療機関の受診をおすすめします。
治療方法
尿道の腫れが強い場合は、炎症を治めるために一時的にステロイド外用薬を塗布して経過を観察します。
長期間の使用は、尿道粘膜を薄くしすぎてしまうことがあるためおすすめできません。
排尿に弊害が起こっている場合は、外科手術によって切除するケースもあります。
尿道カルンクルは、尿路の疾患のため、婦人科ではなく泌尿器科または女性泌尿器科(ウロギネコロジー科)へ相談しましょう。
陰部にできもの・しこりが発生した場合の受診の目安
痛みが軽い場合や、主だった症状がない場合、医療機関を受診すべきか迷ってしまう方が多いです。
陰部にできものやしこりが発生した場合、どのような目安で医療機関を受診すれば良いのでしょうか。
受診した方が良いケースと、受診すべき診療科の選び方をご紹介します。
病院を受診した方が良いケース
症状には個人差がありますが、特に以下のような症状が現れている場合は、早急に医療機関を受診しましょう。
- できものやしこりが大きくなっている
- できものやしこりが赤く腫れて熱を持っている。膿が出ている
- 腫れや痛みが数日経っても引かない。悪化している
- 発熱や倦怠感などの全身症状が現れている
- パートナーにも同様の症状が現れている
- おりものの量が増えた。色が変化した。臭いが強くなった
- おりものに血が混ざっている
できものやしこりの原因が感染症にある場合は、おりものにも変化が現れる可能性が高いです。
陰部はもちろん、おりものの状態もよく観察して、診察の際に医師に伝えましょう。
受診すべき診療科の選び方
陰部にできものやしこりがある場合は、婦人科を受診しましょう。
腟や子宮、卵巣などを詳しく診察・検査する必要があるため、内診台のような設備がない他の診療科では、対応できない可能性があります。
皮膚科や泌尿器科で治療を行える可能性もありますが、原因が明らかでない場合は、基本的に婦人科または女性泌尿器科を受診することをおすすめします。
放置していると重篤化してしまう病気もあるので、陰部のできものやしこりが気になる方は、早めに医療機関を受診してください。
陰部のできもの・しこりに関するQ&A

考えられる病気や治療方法については理解したものの、まだ不安が残っているという方もいるでしょう。
最後に、陰部のできものやしこりに関するよくある質問をQ&A形式でご紹介します。
痛みがあっても時間が経てば自然に治る?
陰部のできものやしこりが、自然に消えることはありません。
粉瘤から性感染症まで様々な原因が考えられますが、いずれにせよ自然治癒は期待できません。
放置していると痛みが悪化する可能性もあるので、早急に医療機関で検査を受けることをおすすめします。
痛みがなければ放置しても良い?
痛みがなくとも深刻な病気を発症している可能性があるので、決して放置せずに医療機関を受診しましょう。
できものやしこりの原因が尖圭コンジローマや梅毒などの性感染症にあった場合、性行為を通じてパートナーに感染してしまう可能性があります。
感染拡大を防ぐためにも、医療機関で検査を受けて適切な治療を受けることが大切です。
リンデロン軟膏を塗布しても良い?
検査を受ける前に、自己判断で薬を使用することは避けましょう。
原因が明らかになっていないにもかかわらず薬を使用してしまうと、薬に含まれる成分がどのように作用するかわかりません。
症状が改善するどころか悪化してしまう可能性があるので、まずは医療機関を受診することをおすすめします。
検査を受けて原因を明らかにした上で、医師の指示に従って薬を使用してください。
デリケートゾーンのトラブルは医療法人心鹿会へご相談ください

陰部にできものやしこりのような異常が現れると、病気ではないかと不安になるものです。
しかし、恥ずかしいと感じて、受診をためらってしまう方が少なくありません。
できものやしこりが発生する理由には様々な原因が考えられますが、中には深刻な病気を発症しているケースもあります。
陰部の異常に気付いたら、決して放置せずに、なるべく早く医療機関を受診することが大切です。
また、いずれかの性感染症が診断された場合、他の性感染症も同時に感染している可能性があります。
特に梅毒が陽性の場合はHIV検査を、その他の性感染症でも医師と相談の上、必要に応じて総合的な検査を受けることをおすすめします。
デリケートゾーンのトラブルにお悩みの方は、医療法人心鹿会へご相談ください。
当院の医師やスタッフは全員女性ですので、デリケートなお悩みについてもお話しいただきやすい環境が整っています。
できものやしこりを診てほしい、陰部に痛みやかゆみがあるなど、まずはお気軽にご相談ください。