やむを得ず妊娠を中断したい場合には、人工中絶手術を受ける必要があります。
中絶を行うにあたって心配となるのが、将来への影響です。
「一度中絶すると不妊になる」という噂がありますが、真実なのでしょうか。
今回は、人工中絶手術の後遺症や中絶跡の有無、合併症のリスクについて解説します。
人工中絶手術を受けても不妊にはならない
不妊になるという噂がある人工中絶手術ですが、科学的な根拠はありません。中絶に際して不安を感じているという方に向けて、まずは「一度中絶すると不妊になる」と噂されている理由や、術後の注意点をご紹介します。
不妊になるといわれる理由
人工中絶手術を受けると不妊になるという噂がありますが、事実ではありません。
人工中絶手術を受けたからといって、着床障害が起こったり、それ以降の妊娠時に胎児や母体に生じるリスクが高まったりするようなことはありません。
「一度中絶手術を受けると不妊になる」という噂が広まった理由としては、子宮内操作(子宮鏡や流産手術、人工中絶手術)のごく稀な合併症である、アッシャーマン症候群に原因があると考えられます。
アッシャーマン症候群とは、子宮の内側の膜に深く傷がつくことで前後の子宮内膜が癒着し、子宮の内腔が狭くなることをいいます。
1回の人工中絶手術で生じるリスクは大変に小さいため、中絶後に不妊になるリスクは極めて低いといえます。
中絶を行った後に妊娠しにくくなったという場合は、中絶ではない別の原因が考えられるでしょう。
術後は妊娠しやすくなる
不妊になるという噂がありますが、実際は、人工中絶手術を受けた直後は妊娠しやすい状態にあります。
人工中絶手術を受けた後、性交渉を再開できる時期と排卵期が重なる可能性が高いことが一つの原因です。
パートナーとよく話し合い、無防備な性交渉は避けてしっかりと避妊を行ってください。
妊娠しないための術後の注意点
術後の妊娠を防ぐためには、正しい避妊方法を把握して実施することが大切です。
国内で実施できる主な避妊方法は、以下の通りです。
・コンドーム
・低用量ピル(経口避妊薬)
・子宮内避妊器具(IUD)
・避妊手術
最も身近で安価な避妊方法が、「コンドーム」を用いた方法です。
コンドームは、実は避妊の失敗率がそれなりに高いのですが、妊娠だけでなく性感染症の予防も行えるため、他の避妊方法と併せて使用することが推奨されています。
近年人気が高まっている避妊方法が、「低用量ピル(経口避妊薬)」を用いた方法です。
低用量ピルは、生理痛の軽減や月経移動が可能なので、避妊以外の悩みも解消したいという方はぜひ試してみてください。
「子宮内避妊器具(IUD)」については、産婦人科で相談することができます。
IUDに月経を軽くするお薬が含まれている「ミレーナIUS」という方法もあります。
IUDやIUSは、中絶手術の直後に、麻酔がかかっている間に挿入してもらえることもあるので、興味があるという方は手術を行う産婦人科に相談しましょう。
「避妊手術」は、パイプカットや卵管結紮のことをいいます。
男性が行うパイプカットについては、泌尿器科へ相談してください。避妊手術の中では、比較的簡単な手術になります。
卵管結紮は、通常は帝王切開手術の際に行います。
避妊方法についてさらに詳しく知りたいという方は、下記ページもご覧ください。
人工中絶手術の後遺症
中絶に限らず、手術を受ける際には後遺症の有無が気になるものです。人工中絶手術を受けると、どのような後遺症が現れると考えられているのでしょうか。
人工中絶手術に後遺症はある?
人工中絶手術を受けた後、体に後遺症が残ることはほぼないといって良いでしょう。
ごく稀に、合併症を発症したために後遺症が残ることはありますが、人工中絶手術は一般的な外科手術と比較すると、リスクが低いといえる手術です。
精神的な後遺症として、「中絶後症候群(Post Abortion Syndrome;PAS)」が紹介されることがありますが、PASは医学的に確立した概念ではありません。
社会的ラベリングや、中絶しないことを良しとする宗教的、社会的背景から生まれた言葉であり、医学的には認められていないのです。
中絶を経験する前後には、とても強く感情が揺さぶられることがあります。
しかし、それが長期的な鬱病や、長引くトラウマ障害を引き起こすリスクは低いという研究結果がほとんどです。
望まない妊娠を防ぐためには、避妊を自己決定することが大切です。
また、それと同じくらい「中絶する権利も持っている」ということを忘れてはいけません。
人工中絶手術後の心の動き
中絶の前後は、パートナーや家族など、身近な人との関係性に大きなストレスが加わるのと同時に、女性ホルモンの大きな揺れのために、感情の起伏が激しくなることが多いです。
落ち込んだり、眠れなかったり、悲しくなったり、怒りが湧いてきたり、自分が嫌になったりと、様々なネガティブな感情が押し寄せるかもしれません。
さらに、ごく近しい人以外は、あなたがこのような大きな変動の中にいることを知らないために、普段通りの生活を強いられることになります。このことも、心や体にとっては大きなストレスになります。
まずは、ネガティブな強い感情が押し寄せても、それが当然なのだということを知っておきましょう。
ネガティブな感情も、自分を守るための大切な感情です。まずは、その感情をただ感じて大丈夫です。
また、パートナーやあなたの周囲の身近な人は、きっと、あなたの期待通りの反応をしません。
そっけない感情だったり、過剰な反応を示したりするかもしれません。
しかし、その人もあなたと同様に、大きな感情の揺れの最中にいるのだということを知っておいてください。
落ち込んだり眠れなかったりするのは、通常6ヶ月以内です。
6ヶ月経っても日常生活に支障がある、気分の落ち込みがあるという場合には、産婦人科や心療内科にご相談ください。
中絶跡で周囲に知られることはある?
中絶を済ませて心が落ち着いてくると、「中絶したことを周囲に知られたらどうしよう」という不安を感じることがあります。
大切なパートナーに知られたくないと思う方は少なくありませんが、人工中絶手術を受けたことは、目に見ただけではわかりません。
医師であっても、中絶を行ったことを見抜くのは難しいといわれています。
お腹にメスを入れる開腹手術のように明らかな痕跡が残ることはないため、周囲に知られることはないでしょう。
人工中絶手術で起こり得る合併症
手術や検査が原因となって起こる疾患を「合併症」といいます。人工中絶手術を受けると、どのような合併症が起こる可能性があるのでしょうか。それぞれの特徴をご紹介します。
子宮内感染(子宮内膜炎)
何らかの原因で子宮内膜に細菌が侵入し、炎症が起こることを「子宮内感染(子宮内膜炎)」といいます。
元々、中絶にかかわらず20~30代の女性が発症することが多い疾患ですが、特に人工中絶手術を受けた後は免疫力が低下しているため、感染しやすい状態にあります。
術後に処方された内服薬は、体調が良くても全て服用してください。
子宮内感染は不妊にも繋がる可能性がある疾患なので、術後に発熱を伴う腰痛や下腹部痛といった症状があれば、医療機関を受診しましょう。
子宮穿孔
人工中絶手術中に子宮が破れたり、穿孔(穴が開くこと)したりすることを「子宮穿孔(しきゅうせんこう)」といいます。
胎児が子宮内で大きくなることで、子宮の筋層が柔らかくなって起こりやすくなります。
主な症状は、出血や腹痛、子宮内感染です。
手術が慎重に行われることはもちろん、術後にも経過観察が必要です。
気になる症状が現れたら、早急に医療機関を受診してください。
腹膜炎
人工中絶手術は清潔な環境下で慎重に行われますが、それでも稀に感染症にかかることがあります。
特にクラミジア感染症にかかっている場合や、子宮穿孔が起こった場合に発症の可能性が高まるのが、腹腔内に雑菌が侵入して起こる「腹膜炎」です。
腹膜炎を発症した場合は、発熱や下腹部の痛みといった症状が現れます。
治療には抗生剤の投与が必要となるので、上記の症状が現れたら医療機関を受診してください。
子宮復古不全
妊娠によって大きくなった子宮が、妊娠する前の状態に回復するのが遅れることを「子宮復古不全」といいます。
初期中絶手術で起こることは稀で、中期中絶手術を受けた後に起こることがあります。
通常は術後1ヶ月程度で正常な子宮収縮が認められる状態に回復しますが、子宮復古不全が起こると正常な子宮収縮が認められず、術後に多量出血するのが特徴です。
子宮収縮薬の投与や子宮の冷却などの処置で改善が期待できますが、子宮内に遺残がある場合には遺残の除去が必要となるでしょう。
人工中絶手術後は心身のケアを行うことが大切
人工中絶手術を受けた後は、体だけでなく心のケアにも努めましょう。
「中絶後、なかなか元の生活に戻れない」、「不妊になるのではないかと不安を感じている」という方は、医療機関へ相談してください。
一人で悩みを抱え込まずに、専門家へ相談することをおすすめします。
人工中絶手術についてさらに詳しく知りたいという方は、下記ページもご覧ください。
中絶に対する不安は海と空クリニック京都駅前へご相談ください
人工中絶手術を受けたからといって、不妊になるということはありません。
「中絶を検討しているものの、将来への影響が出そうで不安」という方は、海と空クリニック京都駅前へご相談ください。
当院の医師やスタッフは全て女性であるため、デリケートな問題についても話しやすい環境が整っています。
患者様が責められるようなことは一切ありませんので、中絶に関する悩みを抱えているという方は、まずは当院へご相談ください。